今では誰もが知っていると言ってもいいほど普及している無線データ通信のWi-Fi。そのWi-Fiの新しい通信規格である「Wi-Fi6」が2019年9月、Wi-Fiアライアンスより発表されました。
新規格であるWi-Fi6の特徴を端的に表すと速くて複数台接続にも強い省電力な規格です。
このWi-Fi6の正式な規格名は「IEEE802.11ax」と言います。ひとつ前の規格は「IEEE 802.11ac」です。基本的にWi-Fiの規格名はIEEE 802.11の部分は変わらず、そのあとにつくアルファベットで区別します。
ちなみにIEEEとは米国電子学会(Institute of Electrical and Electronic Engineers)の頭文字をとったもので、「アイトリプルイー」と読みます。
IEEEに続く802.11の数字には、IEEEの配下にあるLAN技術の標準化を目的とした802委員会という組織が、11番目に設置した作業部会であることから802.11を付しています。
実にわかりにくいですね。
そこで、
Wi-Fiアライアンスさん:「これからはわかりやすくWi-Fiの規格に番号をつけて呼んでいくよ」
Wi-Fi6の正式な規格名称は「IEEE802.11ax」ですが、Wi-Fiの普及を目的としているWi-Fiアライアンスは、より多くの人にとってわかりやすくするために、この新しい通信規格を「Wi-Fi6」と名付けました。Wi-Fiアライアンスは「Wi-Fi」という名前の権利を持っているIEEEと並ぶWi-Fiに関わる大きな団体です。
Wi-Fi6の名前の由来はシンプルで、6世代目のWi-Fiの通信規格なのでWi-Fi6です。スマホなどのモバイルデータ通信で用いられる通信規格3G、4G、そして最近話題の5Gなどの数字が世代を表しているのと同様です。
モバイルデータ通信の場合は5Gの登場前に4Gがあり、4Gの前には3Gが存在していました。一方、Wi-Fiの場合はこのWi-Fi6が初めて番号を付した規格です。そこで今回さらに過去の世代の規格にも後付けで番号がつけられました。
▼各Wi-Fi規格の正式名称とナンバリングされた新しい呼称
規格 | 新呼称 |
---|---|
IEEE 802.11n | Wi-Fi 4 |
IEEE 802.11ac | Wi-Fi 5 |
IEEE 802.11ax | Wi-Fi 6 |
2つ前の世代の規格まで番号をつけた新呼称になっています。ちなみに第1世代にあたる「IEEE 802.11a」、第2世代の「IEEE 802.11b」、第3世代の「IEEE 802.11g」には新たな呼称は用意されていません。
Wi-Fi6って何が進化したの?
Wi-Fi6がそれ以前の世代に比べて優れているのは主に次の4つ
- 通信速度の向上
- 2.4GHz帯と5GHz帯の両方に対応
- 複数接続にも強い安定した通信
- 接続端末のバッテリーの節約
通信速度の向上
最大通信速度(理論値)はWi-Fi5(IEEE 802.11ac)の6.9Gbpsから9.6Gbpsにアップしました。
2.4GHz 帯と5GHz 帯の両方に対応
Wi-Fi6は障害物に強いとされる2.4GHz帯、高速通信が得意とされる5GHz帯の両方の周波数帯に対応しています。ひとつ前の世代のWi-Fi5は一般家庭では十分な速度で通信が可能ですが、対応周波数が5GHz帯のみでした。
複数接続にも強い安定した通信
今までのWi-Fiは多くの人が同時に接続し通信を行うと、速度が低下してしまう傾向がありました。家庭で2、3台を接続しているだけなら問題はありませんが、カフェなど多くの人が利用する公共のエリアではアクセスの集中により速度の低下が起こりやすくなってしまいます。新しいWi-Fi6はOFDMA(直交周波数分割多元接続)という技術で、多くの人が同時接続を行った場合でも速度の低下が起きにくくなりました。
省電力
Wi-Fi6はではTWT(Traveling Wave Tube)という技術で、接続端末側(スマホ、パソコン、スマート家電など)の消費電力を抑え、バッテリーの節約に貢献します。
肝心のスピードは?Wi-Fi6にするとどれくらい速くなるの?
Wi-Fi6の最大通信速度を過去の世代と比較してみます。
規格 | 最大通信速度 | 周波数 |
---|---|---|
IEEE 802.11a | 54Mbps | 5GHz |
IEEE 802.11b | 11Mbps | 2.4GHz |
IEEE 802.11g | 54Mbps | 2.4GHz /5GHz |
Wi-Fi 4(IEEE 802.11n) | 600Mbps | 2.4GHz /5GHz |
Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac) | 6.9Gbps | 5GHz |
Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax) | 9.6Gbps | 2.4GHz /5GHz |
一つ前の世代のWi-Fi5と比較してみると、最大通信速度は6.9Gbpsから9.6Gbpsへとアップし、周波数帯は障害物に強い2.4Ghzと高速通信ができる5GHzの両方に対応しました。
上記の最大通信速度はあくまで理論値です。今現在広く普及しているWi-Fi5で最大通信速度6.9Gbpsの速度が出ないように、Wi-Fi6でも「9.6Gbpsの高速通信ができる」というわけではありません。
実際はどれくらいの速度が出るの?Wi-Fi6の実効速度
実際に最大通信速度で通信することはできませんが、Wi-Fi6はよい条件が整った環境で実際に計測できる速度(実効スループット)の上限が1Gbps以上とされています。Wi-Fi5の800Mbpsからさらに向上しました。ルーターによっては最大約4Gbpsでの通信が可能な製品も発売されています。
ただし、ルーター側に4Gbpsの通信性能があったとしても、それを活かすことは難しいのが現状です。まず一つに、Wi-Fiを接続する端末側にも通信速度の上限があり、スマートフォン(iPhone11の場合)で最大1.2Gbps、パソコンでも最大2.4Gbpsになっているからです。
さらにWi-Fiの通信速度には、契約している回線の速度が大きく関わってきます。そもそもの回線自体の速度が遅ければ新規格のWi-Fiを導入しても劇的な速度の向上は見込めません。
2020年3月現在、フレッツ光やドコモ光などの光コラボの回線の最大通信速度は1Gbpsです。そしてこれも理論値なので、実際には1Gbpsの速度はでません。それらの回線ではWi-Fi5の実効スループットである800Mbpsを出すことも難しいでしょう。
これらのことからWi-Fi6は確実に進化したWi-Fiですが、多くの人には宝の持ち腐れになる可能性があります。
Wi-Fi6で高速通信を実現するにはそれに見合った回線の導入が必要
Wi-Fi6の高速通信の恩恵を最大限に受けたいのならば、契約する光回線が高速である必要があります。現在その条件を満たす回線は多くありません。
候補になるのはSo-netが提供するNURO光の6Gbpsプラン、10Gbpsプラン。そしてau光の5Gbpsプラン、10Gbpsプランあたりです。またフレッツ光も2020年4月に10Gbps対応プランの提供を開始します。
ただし上記プランを契約し、Wi-Fi6対応ルーターを導入しても、先述の通りスマートフォンで最大1.2Gbps、パソコンで最大2.4Gbpsという接続側の端末の通信速度に上限があるため、Wi-Fi6の性能を完全に活かし切ることは難しいのが現状です。
Wi-Fi6の魅力はたくさんの人が繋いでも速度が落ちにくいこと
Wi-Fi6になり最大通信速度がさらに向上しました。しかし先述の通り、スマホなどWi-Fiに接続する端末側の通信速度の上限や、契約している回線速度の速さが追いついていない場合が多いことを考えると、多くの人がWi-Fi6の最大通信速度アップの恩恵を受けられるにはまだ少し時間がかかりそうです。
一般ユーザーにとってのいちばんのメリットは、カフェやスタジアムなど多くの人がWi-Fiに接続する場所でも(Wi-Fi6以前のWi-Fiに比べ)速度低下の起こりにくい点が挙げられれます。
Wi-Fi5では1つのチャンネルを1台の接続端末で占有していたのに対し、Wi-Fi6ではOFDMAという技術の採用で、1つのチャンネルを複数端末に割り当てることで、周波数の利用効率を高めて実効速度の向上を図っています。
多くの人が集まる施設のWi-Fiに接続する利用者にとってはWi-Fi6の導入は大きなメリットと言えるかもしれません。
現状はWi-Fiの規格を気にするよりも回線を見直した方が満足度が高いかも
今後、接続する端末側の最大通信速度の向上や、Wi-Fi6対応ルーターの価格もこなれてくることが考えられますが、現状ではWi-Fi6の導入を急ぐ必要はないように思われます。
Wi-Fi5でも十分!?
一つ前のWi-Fi5でも最大通信速度の理論値は6.9Gbps、そして実行スルートップは800Mbpsです。現在多くの人が利用するWi-FiルーターはWi-Fi5(IEEE 802.11ac)対応であると考えられるため、契約している回線の速度と端末側上限速度等の条件が整えばWi-Fi5でも最大800Mbpsの速度が出ることになります。
800Mbpsの速さがあれば何をするにしても不足を感じることはほとんどないはずです。
実際に4K動画のストリーミング再生を行う場合でも必要とされる速度の目安は25Mbps程度とされています。オンラインゲームの場合は30Mbps以上が目安となっています。もちろん速ければ速いほど快適にプレイできるわけですが。
ストリーミングではなく容量の大きな動画をダウンロードする場合などは、さすがに25Mbpsでは少し心許ないですが、仮に200〜300Mbpsあればかなり短い時間でダウンロードが可能です。
もし今利用している回線の速度のMAXが100Mbps以下である場合は、速い回線に乗り換えることの方がWi-Fi6対応のWi-Fi機器を導入するよりもはるかに快適になります。
速度を重視する方におすすめは最大速度2GbpsのNURO光のG2Vプランです。このプランも2Gbpsの速度がでるわけではありませんが、実際に利用している筆者の環境下では利用者の多い夜間帯を含め350Mbps以上の速度がでています。速い時には700Mbps以上になります。
Wi-Fi5の実行スループット(実効速度の上限値)である800Mbpsとまではいかないまでもこれくらいの速度が出ればインターネット利用に不満を感じることはありません。
またマンションでも回線を共有することなく1回線を占有できるNURO光は集合住宅にお住まいの方にもおすすめです。
将来を見越して早めにWi-Fi6を家庭に導入するのももちろんありですが、今はまだWi-Fi6対応の高性能ルーターは割高で、接続機器の通信速度の上限等の制約もあります。Wi-Fi6の性能を十分に活かせる条件が整うまでは様子を見て、今は回線そのものを速いものに変更することを検討してもいいかもしれません。